
心臓にも新しい血管はできる? 側副血行路(バイパス血管)の驚くべき力
「心臓の血管が詰まったら、その先の心筋にはもう血液が流れないのではないか」
心筋梗塞を経験した私は、長い間そのように考えていました。
ところが人間の身体には、血液が流れにくくなった場所を助けるために、別の道を育てようとする力があります。
その血液の迂回路が、側副血行路(そくふくけっこうろ)です。
一般には「バイパス血管」と呼ばれることもあります。
今回は、心臓の周りに育つ側副血行路とはどのような血管なのか、心筋をどこまで守ることができるのかを、できるだけわかりやすくお話しします。
目次
心臓自身にも血液が必要です
心臓は、全身へ血液を送り出すポンプです。
しかし、心臓の筋肉である心筋も、酸素と栄養を受け取らなければ動き続けることはできません。
心筋へ血液を届けているのが、心臓の表面を走る冠動脈です。
冠動脈が動脈硬化によって細くなると、心筋へ十分な血液を送れなくなり、胸の痛みや圧迫感が起こることがあります。これが狭心症です。
さらに血管が血栓などによって急に詰まり、心筋への血流が途絶えると、心筋梗塞を起こす可能性があります。
側副血行路とは何でしょうか?
冠動脈の周りには、もともと非常に細い血管同士のつながりがあります。
普段は流れる血液が少なく、ほとんど目立たない血管です。
ところが冠動脈がゆっくり細くなり、心筋への血流が不足する状態が続くと、その細い血管へ流れ込む血液が増えることがあります。
すると血流による刺激を受けて、細かった血管が少しずつ太くなり、血液を運べる道へと育っていきます。
これが側副血行路です。
道路にたとえると、主要道路が渋滞したときに、細かった脇道が広げられ、迂回路として使われるようになるイメージです。
そのため側副血行路は、身体が自らつくる「天然のバイパス」と表現されることがあります。
まったく新しい血管が生まれるのでしょうか?
「新しい血管ができる」と聞くと、何もなかったところに突然血管が現れるように感じるかもしれません。
実際には、側副血行路の発達では、もともと存在していた細い血管が太く、丈夫に育つことが重要です。
この変化を医学的には、動脈形成(アーテリオジェネシス)と呼びます。
一方で、細い毛細血管が増える変化は、血管新生(アンジオジェネシス)と呼ばれます。
つまり身体の血管には、
- 細い血管を太く育てる働き
- 新しい毛細血管を増やす働き
という、少し異なる仕組みがあります。
心臓の「バイパス血管」として特に重要なのは、細かった既存の血管が太くなり、より多くの血液を運べるようになる働きです。
側副血行路は心筋を守ってくれるのですか?
側副血行路が十分に発達すると、狭くなった冠動脈とは別の方向から、血流の不足している心筋へ血液を届けられることがあります。
そのため、冠動脈が強く狭くなっていても、心筋への血流が完全には途絶えず、心筋の働きがある程度保たれる場合があります。
また、心筋梗塞が起きた際にも、側副血行路から血液が届いていれば、心筋の傷害を軽くする助けになる可能性があります。
以前の記事でお話しした冬眠心筋も、血流が足りないために動きを弱めながら生き残っている心筋です。
側副血行路は、このような血流不足の心筋へ、わずかでも酸素を届ける大切な役割を果たしている可能性があります。
側副血行路があれば治療は必要ないのでしょうか?
ここは非常に大切なところです。
側副血行路があるからといって、狭くなった冠動脈が治ったわけではありません。
側副血行路から送れる血液量には限界があります。
安静にしているときには足りていても、歩く、階段を上る、重い物を持つなど、心臓が多くの酸素を必要とするときには、血流が不足することがあります。
また、血管が急に詰まる心筋梗塞では、側副血行路が十分に育つ時間がない場合もあります。
胸の痛み、圧迫感、息苦しさ、冷や汗、吐き気などが現れたときは、「バイパス血管があるかもしれないから大丈夫」と考えず、速やかに医療機関へ相談することが必要です。
どのようなときに育ちやすいのでしょうか?
側副血行路は、冠動脈が一瞬で詰まる場合よりも、血管が長い時間をかけて徐々に狭くなる場合に発達しやすいと考えられています。
血流が不足した先の血管と、血流が保たれている血管との間に圧力の差が生まれると、細い連絡血管へ血液が流れ始めます。
その血流が血管の内側を刺激し、血管が太く育つきっかけになります。
ただし、側副血行路の育ち方には個人差があります。
同じ程度の冠動脈狭窄があっても、よく発達する人もいれば、十分に発達しない人もいます。
糖尿病、喫煙、加齢、血管内皮の状態など、さまざまな要因が関係すると考えられています。
運動をするとバイパス血管が増えるのでしょうか?
適切な運動習慣は、血管の内側を流れる血液の刺激を増やし、側副血行路の働きを高める可能性が研究されています。
特に心臓リハビリテーションでは、医師による評価のもとで、その人に合った強さの有酸素運動が行われます。
ただし、強く運動すればするほど血管が増える、という意味ではありません。
冠動脈に狭窄がある方や、心筋梗塞、心不全、不整脈の経験がある方が、自己判断で息が切れるほど運動することは危険です。
運動を始める場合は、医師に安全な運動の強さを確認し、無理のない範囲で継続することが大切です。
温めて血流を良くすれば側副血行路は育つのでしょうか?
身体を心地よく温めると、皮膚や末梢の血管が広がり、血流が良くなることがあります。
また、リラックスしやすくなり、筋肉の緊張や身体への負担が軽くなることも期待できます。
しかし、温熱療法だけで心臓の側副血行路が確実に新しくつくられる、あるいは詰まった冠動脈の代わりになるほど発達する、とまでは現在の医学では断定できません。
温熱やマッサージは、薬や心臓リハビリ、カテーテル治療、バイパス手術などの代わりではなく、体調を整えるための補助的な方法として考える必要があります。
特に心不全や重い心臓病がある方は、長時間の入浴、高温のサウナ、急激な温度変化などが心臓への負担になることがあります。
温熱療法を行う場合も、体調と血圧を確認し、医師と相談しながら安全に行うことが大切です。
「血管は変わる」という希望
私は心筋梗塞を経験したとき、「血流がなくなった場所の心筋は、すべて死んでしまったのだろうか」と疑問を持ちました。
その後、冬眠心筋や側副血行路について知り、身体はただ壊れていくだけではなく、残された組織を守ろうとする仕組みを持っていることを知りました。
血流が不足すると、心筋は動きを弱めて酸素の消費を抑えることがあります。
そして血管の周囲では、細い血管が迂回路として育とうとすることがあります。
身体には、変化した環境へ適応し、生き延びようとする力が備わっているのです。
これは、とても大きな希望だと思います。
ただし、その力だけに頼るのではなく、医師による検査や治療を受けながら、禁煙、血糖・血圧・コレステロールの管理、適切な運動、睡眠、食事などを積み重ねることが、残された心筋と血管を守る基本になります。
まとめ
心臓の周りには、冠動脈の血流が不足したときに、別の方向から血液を届ける側副血行路が発達することがあります。
側副血行路は、もともと細かった血管が血流の刺激を受け、太く丈夫に育ったものです。
この天然のバイパスは、血流不足の心筋を守り、心筋の働きを保つ助けになる可能性があります。
しかし、詰まった冠動脈を完全に治すものではなく、必要な検査や治療の代わりにはなりません。
私たちの身体には、血流が不足した場所を助けようとする力があります。
その力を過信せず、同時に身体の可能性をあきらめず、毎日の生活習慣と適切な医療によって血管を守っていくことが大切です。
次回予告
次回は、
「心筋梗塞のあと、心臓はどこまで回復できる? 心臓リハビリと血流改善の可能性」
についてお話しします。
心筋梗塞のあとに身体を動かすことには、どのような意味があるのでしょうか。
無理なく安全に心臓の働きを守る、心臓リハビリテーションの考え方を、わかりやすくご紹介します。
※この記事は一般的な健康情報をお伝えするもので、診断や治療に代わるものではありません。胸痛、胸部圧迫感、息苦しさ、冷や汗などの症状がある場合は、速やかに医療機関へご相談ください。































