
心筋梗塞のあと、心臓はどこまで回復できる? 心臓リハビリと血流改善の可能性
心筋梗塞を経験したあと、多くの方が一度はこのように考えるのではないでしょうか。
「血流が途絶えて動かなくなった心筋は、もう死んでしまったのだろうか」
私も、自分が心筋梗塞を起こしたあと、同じ疑問を持ちました。
心筋梗塞を起こした場所には血液が流れていない。心臓の動きも弱くなっている。
そのような説明を聞くと、どうしても「もう回復しないのではないか」と考えてしまいます。
ところが、ある先生から聞いた言葉が、私の心に強く残りました。
「動いていないからといって、完全に死んでいるとは限らないよ」
今回は、心筋梗塞のあとに心臓はどこまで回復できるのか、そして心臓リハビリや血流改善にはどのような可能性があるのかを、できるだけ分かりやすくお話しします。
目次
- 1 「動いていない=完全に死んでいる」とは限らない
- 2 心筋梗塞では、心臓に何が起こるのか
- 3 完全に壊死した心筋は元に戻るのか
- 4 血流が足りずに眠っている「冬眠心筋」
- 5 一時的に動けなくなる「気絶心筋」もある
- 6 生きている心筋かどうかは、どのように調べるのか
- 7 心臓リハビリは、単なる運動ではありません
- 8 運動すると、心臓に負担がかかるのでは?
- 9 脚の筋肉が、心臓を助けてくれる
- 10 血流改善のために大切なこと
- 11 温めることやマッサージには、どのような役割があるのか
- 12 心臓に新しい血液の通り道ができることもある
- 13 回復とは、心臓を新品に戻すことだけではない
- 14 自分の身体は、自分にしか変えられない
- 15 こんな症状が出たら、運動を中止してください
- 16 まとめ|心臓には、残されている可能性がある
- 17 次回予告
- 18 参考資料
「動いていない=完全に死んでいる」とは限らない
心筋梗塞を起こしたあと、私は医師に尋ねました。
「血流が途絶えて動かなくなった心筋は、もう死んでしまっているのでしょうか?」
すると先生は、私の仕事に合わせて、筋肉の話に置き換えて説明してくれました。
「あなたは、凝り固まって動きにくくなった筋肉を、揉みほぐして血流を改善すると、再び動きやすくなることを知っているでしょう。
生きている人間の心臓にも、まだ回復する可能性はあるよ」
私は長年、マッサージの仕事をしてきました。
硬くなって動きにくくなった筋肉も、温めたり、無理のない範囲でほぐしたり、少しずつ動かしたりすることで、血流が改善し、柔らかさや動きが戻ってくることがあります。
先生は、心臓を直接揉めば治るという意味で話したのではありません。
おそらく、私にも分かりやすい筋肉の例を使って、次のようなことを伝えてくれたのだと思います。
「今は動きが弱くても、すべての心筋が完全に死んでいるとは限らない。生き残っている心筋には、血流が戻ることで再び働き始める可能性がある」
この言葉は、心筋梗塞を経験した私にとって、大きな希望になりました。
心筋梗塞では、心臓に何が起こるのか
心臓は、全身に血液を送り出すポンプです。
その心臓の筋肉を「心筋」と呼び、心筋に酸素と栄養を届けている血管が「冠動脈」です。
動脈硬化や血栓などによって冠動脈が詰まると、その先にある心筋へ十分な血液が届かなくなります。
これが心筋梗塞です。
心筋は、酸素を含む血液が長時間届かなくなると大きな傷害を受けます。しかし、心筋梗塞を起こした周辺の心筋が、すべて同じ状態になるとは限りません。
- 傷害が強く、壊死して瘢痕になった部分
- 一時的な血流不足によって動きが弱くなった部分
- 慢性的な血流不足に適応して、収縮する力を抑えている部分
- 周囲からわずかな血液を受け取り、生き残っている部分
このように、動きが悪く見える心筋の中にも、いくつかの異なる状態が考えられます。
完全に壊死した心筋は元に戻るのか
ここは、正しく理解しておかなければならないところです。
長い時間、血液と酸素が途絶え、完全に壊死して瘢痕組織に置き換わった心筋を、運動やマッサージによって元の心筋に戻すことは、現在の一般的な医療ではできません。
心臓を外側から揉みほぐすこともできません。
しかし、これは「心筋梗塞を起こしたら、心臓も身体も二度と回復しない」という意味ではありません。
心臓の一部に瘢痕が残ったとしても、
- 血流不足で動きを弱めていた心筋が回復する
- 残っている心筋が働きを補う
- 新しい血液の通り道である側副血行路が発達する
- 脚や呼吸に関わる筋肉が強くなる
- 少ない心臓の負担で身体を動かせるようになる
といった変化が起こる可能性があります。
心筋そのものを元どおりにすることと、人間の身体全体が回復していくことは、同じではないのです。
血流が足りずに眠っている「冬眠心筋」
心筋の中には、血流が不足した状態が続くと、収縮する力を弱めてエネルギーの消費を抑え、生き残ろうとするものがあります。
これを「冬眠心筋」と呼びます。
冬眠心筋は、完全に壊死した心筋とは違います。
十分な血液が届かないために活発に動けず、まるで冬眠するように、働きを抑えている状態です。
心筋は、細胞が生き続けるためのエネルギーを優先し、収縮に使うエネルギーを節約していると考えられています。血管治療などによって血液と酸素の供給が改善すると、時間をかけて収縮機能が回復する可能性があります。
つまり、画像検査で心臓の壁があまり動いていないように見えても、
「動いていないから、完全に死んでいる」
とは必ずしも言い切れないのです。
一時的に動けなくなる「気絶心筋」もある
冬眠心筋と似た言葉に、「気絶心筋」があります。
急に血流が途絶えたあと、カテーテル治療などによって血流が戻っても、心筋の動きがすぐには回復しないことがあります。
血液は流れるようになったものの、心筋が一時的な強いダメージから立ち直れず、動きが弱い状態です。
これを気絶心筋といい、状態によっては数日から数週間、あるいはそれ以上かけて、徐々に動きが改善する場合があります。
冬眠心筋も気絶心筋も、完全に壊死した心筋とは異なり、まだ生きている可能性のある心筋です。
生きている心筋かどうかは、どのように調べるのか
心臓の壁が動いていないという情報だけでは、その部分が完全に壊死しているのか、まだ生きているのかを正確に判断できないことがあります。
心筋の状態を詳しく調べるためには、医療機関で次のような検査が行われます。
- 心臓超音波検査(心エコー)
- 負荷心エコー検査
- 心臓MRI検査
- 心筋血流シンチグラフィー
- PET検査
- 冠動脈CTや冠動脈造影検査
これらの検査を組み合わせ、心筋の動き、血流、瘢痕の範囲、心筋が生きている可能性などを評価します。
その結果をもとに、薬による治療、カテーテル治療、冠動脈バイパス手術などが必要かどうかを、循環器の医師が総合的に判断します。
すべての動きの悪い心筋が冬眠心筋とは限りません。また、血流を改善すれば必ず元どおりに動くとも限りません。
だからこそ、検査によって現在の心臓の状態を知ることが大切です。
心臓リハビリは、単なる運動ではありません
心筋梗塞のあとに行われる心臓リハビリテーションは、ただ歩いたり、自転車をこいだりするだけのものではありません。
心臓リハビリは、医師、看護師、理学療法士、薬剤師、管理栄養士などが連携して行う、総合的な治療です。
主な内容には、次のようなものがあります。
- 心臓の状態に合った運動療法
- 血圧、脈拍、心電図、自覚症状の確認
- 食生活や体重管理の指導
- 血糖値、血圧、コレステロールの管理
- 禁煙の支援
- 薬を正しく続けるための支援
- 不安やストレスへの心理的支援
- 仕事や日常生活への復帰支援
日本循環器学会のガイドラインでも、心臓リハビリは運動療法だけでなく、患者教育、生活習慣の改善、危険因子の管理、心理的支援などを含む包括的な治療として位置づけられています。
心臓リハビリは、心筋を直接再生させたり、心臓を揉みほぐしたりする治療ではありません。
しかし、心臓に無理をかけない動き方を身につけ、全身の機能を高めることで、心臓の負担を軽くし、再発や再入院を防ぐことを目指します。
運動すると、心臓に負担がかかるのでは?
心筋梗塞を経験した方の中には、
「動いたら、また心筋梗塞を起こすのではないか」
「心臓を休ませるために、なるべく動かないほうがよいのではないか」
と不安になる方もいらっしゃると思います。
もちろん、心筋梗塞の直後や病状が安定していない時期に、自己流で激しい運動をすることは危険です。
しかし、必要以上の安静を長く続けると、脚の筋力や呼吸する力が低下し、少し歩いただけでも息切れするようになります。
すると、ますます動くことが怖くなり、さらに体力が低下するという悪循環に陥ります。
大切なのは、
「運動するか、しないか」ではなく、「今の心臓に合った運動を、安全に行うこと」
です。
心臓リハビリでは、患者さんの心臓の状態や体力を確認しながら、適切な運動の強さを決めます。
日本心臓リハビリテーション学会は、継続的な運動療法には運動能力や筋疲労、心臓病の危険因子、精神面などを改善する効果があると説明しています。
退院後も外来心臓リハビリや適切な在宅運動を継続することが、再入院の予防や長期的な回復のために重要です。
脚の筋肉が、心臓を助けてくれる
心筋梗塞後の回復というと、心臓だけに目が向きがちです。
しかし、身体を動かすためには、心臓だけでなく、脚の筋肉、呼吸筋、血管、自律神経など、全身の働きが関係しています。
特に、ふくらはぎをはじめとする脚の筋肉は、歩くたびに収縮し、下半身にたまった血液を心臓へ戻す働きを助けています。
この働きは「筋ポンプ作用」と呼ばれます。
長期間動かないでいると、
- 脚の筋力が低下する
- 筋ポンプの働きが弱くなる
- 歩くために多くのエネルギーが必要になる
- 同じ距離でも心拍数が上がりやすくなる
- 息切れや疲労を感じやすくなる
といった変化が起こります。
反対に、無理のない運動を続け、脚や身体の筋肉が少しずつ強くなると、以前より少ない負担で歩けるようになります。
心臓が急に若返るわけではなくても、身体全体の効率が良くなることで、心臓の負担を減らすことができるのです。
血流改善のために大切なこと
「血流を良くする」と聞くと、温めたり、揉んだりすれば、詰まった冠動脈も開くのではないかと考える方がいるかもしれません。
しかし、心筋梗塞の原因となった冠動脈の詰まりや強い狭窄を、マッサージや温熱だけで開通させることはできません。
冠動脈の血流を改善するためには、病状に応じて、
- 薬物療法
- カテーテル治療
- 冠動脈バイパス手術
- 血圧、血糖、脂質の管理
- 禁煙
- 医療者の指導による運動療法
- 食生活や体重の管理
などが必要です。
そして、これらの治療に加えて、身体を動かしやすい状態をつくり、末梢の血流や筋肉の働きを整えることも大切です。
温めることやマッサージには、どのような役割があるのか
温熱やマッサージによって、皮膚や筋肉の血流が増え、身体の緊張がゆるみ、関節や筋肉を動かしやすくなることがあります。
身体が冷えて筋肉が硬くなっていると、歩くことや運動そのものがつらくなります。
そのような方にとって、身体を無理なく温めたり、硬くなった筋肉をやさしくほぐしたりすることは、身体を動かす準備として役立つ可能性があります。
ただし、ここには大切な区別があります。
- 骨格筋は、身体の外から触れてほぐすことができる
- 心筋は、身体の外から直接揉みほぐすことはできない
- 温熱やマッサージだけで、詰まった冠動脈を開くことはできない
したがって、温熱やマッサージは、心筋梗塞の治療そのものに代わるものではありません。
循環器の治療をきちんと受けたうえで、筋肉の緊張をゆるめ、身体を動かしやすくし、日常生活や運動療法を支える方法として考えることが大切です。
特に心不全、不整脈、低血圧、腎機能低下などがある方は、強い温熱や長時間の入浴によって血圧が下がったり、心臓に負担がかかったりすることがあります。
新しい温熱療法や運動を始めるときは、必ず主治医に相談してください。
心臓に新しい血液の通り道ができることもある
前回の記事では、心臓の「側副血行路」についてお話ししました。
冠動脈の血流が悪くなったとき、周囲にある細い血管が少しずつ発達し、血液を別の方向から届ける通り道になることがあります。
これが側副血行路です。
側副血行路は、いわば身体の中につくられる自然のバイパス血管です。
ただし、誰にでも十分な側副血行路ができるわけではなく、これだけで重い冠動脈の狭窄や閉塞を治療できるわけでもありません。
それでも、人間の身体には、血流が不足した場所を何とか助けようとする仕組みが備わっていることが分かります。
冬眠心筋や側副血行路の存在を知ると、心臓は単純な機械ではなく、環境の変化に適応しながら生き続けようとする臓器なのだと感じます。
回復とは、心臓を新品に戻すことだけではない
心筋梗塞のあと、心臓がどこまで回復するかは、人によって異なります。
- 心筋梗塞を起こした範囲
- 血流が途絶えていた時間
- 治療を受けるまでの時間
- 冠動脈の状態
- 心筋がどの程度生き残っているか
- 心不全や不整脈の有無
- 糖尿病、高血圧、腎臓病などの状態
- その後の運動や生活習慣
などによって、回復の程度は変わります。
けれども、回復とは、傷ついた心臓を若いころとまったく同じ状態に戻すことだけではありません。
残っている心臓の働きを守り、全身の筋肉を整え、少ない負担で歩けるようになること。
息切れを減らし、自分の足で出かけられるようになること。
再発や再入院を防ぎ、安心して暮らせる時間を増やすこと。
これらも、すべて大切な「回復」です。
自分の身体は、自分にしか変えられない
先生からは、次のような意味の言葉もかけられました。
「医師ができる治療には限界がある。しかし、毎日の生活の中で身体を少しずつ変えていけるのは、本人だけだよ」
病気になったとき、薬や手術などの医療は欠かせません。
しかし、薬を正しく飲むこと、食事を整えること、身体の状態に合った運動を続けること、睡眠をとること、禁煙することも、本人にしかできません。
一日だけ頑張ればよいのではなく、小さなことを毎日続ける必要があります。
すぐに大きな変化が見えなくても、身体は少しずつ変わっていきます。
無理をして身体を壊してしまっては意味がありません。
主治医や心臓リハビリの専門家と相談し、自分の心臓に合った方法を見つけることが大切です。
こんな症状が出たら、運動を中止してください
心筋梗塞後の運動中や入浴中に、次のような症状が現れた場合は、無理をして続けてはいけません。
- 胸の痛み、圧迫感、締めつけられる感じ
- 急な息苦しさ
- 冷や汗や吐き気
- 強い動悸
- めまい、ふらつき、意識が遠のく感じ
- いつもとは違う強い疲労感
- 急に足のむくみが増えた
- 数日で体重が急に増えた
特に、胸の痛みや圧迫感が続く場合、強い息苦しさや冷や汗を伴う場合は、心筋梗塞の再発など緊急性の高い状態も考えられます。
ためらわずに救急車を呼び、医療機関を受診してください。
まとめ|心臓には、残されている可能性がある
心筋梗塞によって完全に壊死し、瘢痕になった心筋を、元の状態に戻すことは簡単ではありません。
しかし、動きが弱く見える心筋のすべてが、完全に死んでいるとは限りません。
血流不足によって働きを抑えている冬眠心筋や、一時的なダメージによって動けなくなっている気絶心筋であれば、血流の回復とともに、収縮する力が改善する可能性があります。
また、残った心筋、側副血行路、脚や呼吸の筋肉など、身体全体の働きを整えることで、心臓の負担を減らし、生活する力を取り戻すこともできます。
「動いていない=完全に死んでいる」とは限らない。
この言葉は、心筋梗塞を経験した私に、大きな希望を与えてくれました。
だからといって、自己流で無理な運動をしたり、温熱やマッサージだけで心筋梗塞を治そうとしたりしてはいけません。
まずは、現在の心臓の状態を検査で正しく知ること。
そして、必要な治療と服薬を続けながら、心臓リハビリ、食事、睡眠、運動など、自分にできることを少しずつ続けること。
心筋梗塞を起こしたからといって、すべての可能性が失われたわけではありません。
今日できる小さな一歩が、これからの心臓と身体を支える大きな力になるのだと思います。
次回予告
「心臓を守る運動とは? 歩く・呼吸する・脚を鍛える心臓リハビリの基本」
心筋梗塞や心不全を経験したあと、どのくらい身体を動かしてよいのか、不安を感じる方は少なくありません。
次回は、ウォーキング、呼吸、脚の筋肉など、心臓に無理をかけずに全身を整える方法について、分かりやすくお話しします。
※この記事は、心筋梗塞後の回復や心臓リハビリについて一般的な情報をお伝えするものです。診断や治療の代わりになるものではありません。心筋梗塞、心不全、不整脈などのある方は、運動、温熱療法、入浴方法などを変更する前に、必ず主治医へご相談ください。
参考資料
- 日本循環器学会・日本心臓リハビリテーション学会合同「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」
- 日本心臓リハビリテーション学会「運動療法を紹介」
- 日本心臓リハビリテーション学会「心臓リハビリは退院後も必要ですか」
- 米国国立心肺血液研究所(NHLBI)「Heart Attack Recovery」
- 心筋生存能および冬眠心筋に関する医学文献































