
真向法を続けていて、
「どうしても前に倒れない」
「太ももの裏が突っ張る」
「身体が硬いから仕方がない」
そんなふうに感じたことはありませんか?
私自身も長い間、
身体が硬い=筋肉や関節が硬い
と考えることが多くありました。
ところが最近、神経の動きを改めて勉強していて、とても面白いことに気づきました。
それは、
神経も身体の動きに合わせて、身体の中を滑るように動いている
ということです。
神経は「伸びる」だけではなく「滑って動く」
神経というと、脳から電気信号を伝える「電線」のようなイメージを持つ方が多いと思います。
私も以前は、そのイメージが強くありました。
しかし神経は、身体の中に固定された電線ではありません。
腕や脚を曲げたり伸ばしたりするたびに、神経は周囲の筋肉・筋膜・骨などとの間で位置を変えます。
長さ方向に少し動いたり、
横方向にもずれたり、
身体のカーブに合わせて形を変えたりします。

このことを知ると、真向法の見方も少し変わってきます。
「筋肉が硬いから曲がらない」とは限らない
たとえば真向法の第2体操。
両脚を前へ伸ばして前屈すると、太ももの裏が強く突っ張ることがあります。
すると普通は、
「ハムストリングが硬いから前屈できない」
と考えます。
もちろん筋肉の柔軟性は大切です。
しかし膝を伸ばして前屈すると、筋肉だけでなく、坐骨神経を含む神経系にも張力が加わります。
つまり、
「筋肉がこれ以上伸びない」のではなく、神経系がこれ以上の動きを嫌がっている可能性もある
ということです。
身体は危険を感じると、筋肉を緊張させて、それ以上動かないようにブレーキをかけることがあります。
ですから、
身体の硬さをすべて「縮んだ筋肉」のせいにしない。
これも「令和の真向法」で大切にしたい考え方です。
梨状筋と坐骨神経痛も「圧迫」だけではない
坐骨神経痛では、
「梨状筋が硬くなり、坐骨神経を圧迫する」
という説明をよく聞きます。
これは一つの考え方ですが、もう少し広く見ることもできます。
坐骨神経は、お尻の深いところを通り、脚の動きに合わせて周囲の組織との間を動いています。
そのため問題は、単純に「押される」ことだけではありません。
圧迫される。
周囲との滑りが悪くなる。
動いたときに余計な張力がかかる。
こうした要素が重なって症状に関係することもあります。
最近では梨状筋だけに原因を求めず、臀部深部で坐骨神経が影響を受ける状態を「深殿部症候群」という広い考え方で捉えることもあります。
そこで大切になってくるのが、
「神経を強く伸ばす」のではなく、「神経をやさしく滑らせる」
という考え方です。
そこで「神経スライダー」
神経モビライゼーションには、神経に張力を加える方法と、神経を滑らせる方法があります。
今回「令和の真向法」で取り入れたいのは、後者の神経スライダーです。
長いロープをイメージしてください。
片方を少し引くときには、反対側をゆるめる。
次は反対側を引いて、こちら側をゆるめる。
こうすることで、ロープ全体を強く引っ張らずに、スルスルと行ったり来たりさせることができます。
神経スライダーも、これに近い考え方です。
真向法の前に「30秒・坐骨神経スライダー」

やり方は簡単です。
① 椅子に座り、膝をゆっくり伸ばしながら顔を上げます。
しびれや痛みが強く出るところまで伸ばす必要はありません。
② 次に膝を曲げながら、あごを軽く引いて下を見ます。
この2つの動きを、ゆっくり往復します。
左右それぞれ5~10回程度から始めてみてください。
大切なのは、
「効かせよう」と頑張らないこと。
神経を強く伸ばすのではなく、
「スルスル動かしてあげる」
くらいのイメージで十分です。
もう一度、真向法をしてみる
坐骨神経スライダーを行ったら、少し休んで、もう一度真向法第2体操をしてみます。
このとき、何センチ深く曲がったかだけを比べないでください。
「さっきより少し楽」
「太ももの裏の突っ張りが少ない」
「力まなくても前へ行ける」
「呼吸がしやすい」
「左右差が少し減った」
こうした変化も、とても大切です。

30秒で変わったら、筋肉が伸びたのでしょうか?
ここが今回、一番面白いところです。
神経スライダーを数回行っただけで、さっきより前屈しやすくなったとします。
では、その数十秒でハムストリングが急に長くなったのでしょうか?
必ずしも、そうとは限りません。
神経系の感じ方、神経と周囲組織との動き、筋肉の防御的な緊張などが変化して、身体が
「もう少し動いても大丈夫」
と判断した可能性も考えられます。
ただし、
「前屈が変わった=神経の癒着が取れた」
と決めつけることはできません。
身体の動きは、筋肉・関節・神経・呼吸・感覚など、いろいろな要素が一緒になって作られているからです。
筋肉の張り? それとも神経?
一つ面白い確かめ方があります。
前屈して太ももの裏が張ったところで、無理のない範囲で顔を少し上げたり下げたりしてみます。
もし、
顔を上げる → 脚の張りが軽くなる
顔を下げる → 脚の張りが強くなる
という変化がはっきり出る場合、筋肉だけではなく神経系の影響も考えるヒントになります。
首を動かしても、太ももの裏の筋肉そのものの長さは大きく変わらないからです。
ただし、これは病気や原因を診断する検査ではありません。
あくまで「自分の身体の反応を観察する方法」として使ってください。
無理に伸ばさない――これも令和の真向法
昔の柔軟体操では、
「硬いならもっと伸ばす」
「痛くても我慢する」
「毎日押していれば柔らかくなる」
という考え方もありました。
しかし神経は、強く引っ張れば良いとは限りません。
嫌がっている身体をさらに押し込むと、防御反応でかえって力が入ることもあります。
そこで私は、
伸ばす前に、まず動ける環境を作る。
という考え方を大切にしたいと思います。
神経スライダーは、その一つです。
一方を張ったら、反対側をゆるめる。
無理に固定せず、身体に逃げ道を残してあげる。
これは、私が長年行ってきた操体法の考え方とも、どこか通じるものを感じています。
目標は「もっと曲がる」ことではありません
真向法をしていると、
「もっと深く曲がらなければ」
「床に胸がつかなければ」
と思ってしまうことがあります。
しかし、それが目的になってしまうと、自分の身体から出ている小さな信号を見失ってしまいます。
以前、治療家の先輩から、こんな話を聞きました。
慢性疾患で苦しんでいる人にとって、身体が1ミリ楽に動けることが、どれほど大きな意味を持つか想像できるか。
最近、その言葉を改めて思い出しました。
昨日より1ミリ。
始める前より1ミリ。
角度は同じでも、少し楽になったなら、それも「自分の1ミリ」です。
私はこれを、
「奇跡の自分の1ミリ」
と呼びたいと思います。
令和の真向法は「身体との対話」
真向法には長い歴史があります。
だからこそ、昔からある四つの体操を大切にしながら、現在分かってきた身体の仕組みも取り入れて、もっと安全に、もっと楽しく続ける方法を考えていきたいと思います。
筋肉だけを見るのではなく、神経も見る。
関節も見る。
呼吸も見る。
そして一番大切なのは、
自分の身体の反応を見ること。
頑張って伸ばすのではなく、
動ける身体にしてから、もう一度動いてみる。
これが、私の考える「令和の真向法」です。
大きく変わらなくても構いません。
ほんの少し楽になった。
ほんの少し呼吸しやすかった。
ほんの少し動きやすかった。
その小さな変化を、大切にしてみてください。
それが、あなたの「奇跡の自分の1ミリ」かもしれません。
大切な注意
神経スライダーは、痛みやしびれを我慢して行う運動ではありません。
ビリビリする痛みやしびれが強くなる、脚に力が入りにくくなる、運動後も症状が強く残る場合は中止してください。
また、急に脚の筋力が落ちた、排尿・排便の異常が出た、股の周囲に感覚異常があるなどの場合は、セルフケアより医療機関での評価を優先してください。
「たくさんやれば早く良くなる」ではなく、痛みのない範囲で、やさしく、少しずつ。
これも「令和の真向法」で大切にしたい考え方です。































